ぼくの義兄はサラリーマンだが、定年後はたこ焼き屋をしながら日本全国を巡る夢があるそうな。たこ焼きといえば浪速のソウルフードだ。近頃ではチーズやキムチ入りのたこ焼きが人気上昇中だと聞く。何事に於いても、新しいことを始めると賛否両論が飛び交う。何百年、何十代にも渡って続いて来た老舗は、伝統を守りながらも、その時代に即したアイデアを活かして、一見斬新奇抜と思えるような商品でも開発したので、顧客の心を捉えることが出来たのである。従って老舗は古いのではなく、常に新しいことを模索していることになる。
東京の鮨職人は気風がいいが、保守的なところがある。
「カリフォルニア・ロール一丁!」
などと言おうものなら、
「ざけんじゃねぇよ、けぇれ!」
と、板前さんに叱られてしまう。その点、関西の人間は柔軟性があって臨機応変である。 だが、ジョークの通じない東京の偉いさんが、大阪で鮨屋のカウンターに座ると一体どうなるのか。
「お任せで頼むよ」
「へい、お待ち」
「何だこりゃ、レバニラ炒めじゃないか」
「そやかて、お任せてゆうたやんかいしー」
これはちょっと行き過ぎで、吉本新喜劇の台本になってしまう。
ロサンゼルス郊外に、邪悪なスシ・バーがある。
「アメリカのレストランで貴方も働きませんか。寮完備、三食付き、給与、コレクトコール」
日本の新聞に三行広告を掲載して、無知な若者をアメリカへ呼び寄せる。無論、不法就労である。当日、レストランのオーナーが空港まで迎えにきて、寮として使っている一軒家に案内される。明日からは見習ということで、数ヶ月間無報酬で働かされるのだ。
レストランの客は殆どが白人で、たまに日本人が行くと、あからさまに厭な顔をされてしまう。従業員は日本人のオーナー夫婦と、妹夫婦、あとは全員日本からやって来た若者たち7、8人が働いている。彼らはバスボーイや仕込み、ウエイトレスの仕事をやらされているが、彼らにチップは一銭も入らない。オーナー等4人だけでチップを分配しているのだ。
日本の若者たちは何も分からないアメリカで、頼れるのはレストランのオーナーだけである。住まいと食事が与えられているので、アメリカで生活しているという満足感に浸りながら、数ヶ月間は健気に働くそうである。
帰国したいという若者には、オーナーが説得するそうであるが、時には脅しに掛かるらしい。だが、日本で新聞の広告を見た若者が、また一人、二人とやって来る。アメリカの事情を良く知らない日本人は、反抗などはしないし、おとなしくて信頼がおける。おまけに言葉が通じるから、いいようにこき使われている。
若者たちはオーナー所有の一軒家で共同生活を強いられながら、朝早くから夜遅くまでレストランで働いている。郊外にあるので日本語放送も日本語の情報誌も手に入らない。週に一度の休みの日にはオーナー夫婦や妹夫婦が手分けして、彼らを映画やショッピングに連れだしている。こうすることによって、現地の日本人との接触を断ち切り、余計な情報が彼らに入らないようにしている。言わば監視されているのだ。
このオーナーは日本ではチンピラであったとか、やくざだったと言われているが、過去がどうであれ
今、現在、同胞をたぶらかす非道な行いをしているので、許されるものではない。
或る日、一人の青年がスシ・バーのオーナーの下から脱走した。駆け込んだ先は、近隣で宣教を始めたばかりの日本人家族の家だった。宣教師は青年と一緒にオーナーを訪ねていって、青年を解放してもらうようにお願いした。
レストラン業界に詳しい在米25年のスポークスマンは、同じような手口で、同胞を手玉にとって営業しているレストランのオーナーが、彼の知る限りに於いても、あと三軒はあると言う。
また、同郷の純粋なお年寄りばかりをターゲットにして、言葉巧みに近づいていっては、率の悪い各種保険に加入させて荒稼ぎしている狡猾な男が、南カルフォルニアを舞台にして、ほくそえんでいる。
若者たちの夢をもてあそび、ひたむきな高齢者の心を欺く悪いやつらは、今日も、てぐすねを引いて獲物に狙いをつける。
そのとき、イエスは言われた、「父よ、彼らをゆるしください。彼らは何をしているのか、わからずにいるのです」(ルカ:23・34)
この御言葉が頭に浮かんだ瞬間、ぼくはあらゆる同胞のために祈らずにはいられなかった。
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