三児の母親であるチャーチ・メイトの松本じゅんさんから、アンパンマンのビデオのお下がりを頂戴した。以来、愛娘のジョイとぼくは、たちまちアンパンマンのファンになってしまった。従って近所のレンタル・ビデオ屋さんへ足繁く通っては、アンパンマンのビデオを順番に借りまくっている昨今である。
アンパンマンのストーリーは毎回ほぼ同じ内容である。最後にはライバルのばいきんまんがアンパンマンにやっつけられてしまう。実はこのばいきんまんなのだが、「おれ様こそが彼の有名な世界一のワル」などとほざいているが、本当は気立ての優しい孤独なキャラクターなのである、とぼくは見ている。
むしろぼくは、いつもばいきんまんの傍らにいて、ばいきんまんをそそのかしてばかりいるドキンちゃんの方こそ、質が悪いと思う。このドキンちゃんのキャラクターは、ちょっぴりお色気が漂う、我が儘で要領の良い小悪魔に設定されている。
その点、ばいきんまんは単細胞だが、言い換えれば素直な性格の持ち主である。アプローチの仕方如何によっては、彼の歪められた性格が矯正できるのではないかと期待している。
一本のビデオには何本かの物語が収められてあるが、ぼくは物語と物語の間合いに登場するアンパンマンとばいきんまんの、短いツー・ショットが好きだ。どのような内容のものかと言うと、アンパンマンとばいきんまんが、二人仲良く寄り添って笑っているシーンなのである。
この中睦まじい二人の笑顔には、愛や、喜び、そして平和、寛容、慈愛、善意、忠実、柔和、自制といった、九つの御霊の実(ガラテヤ5:22)が凝縮されている。ぼくはこれこそが本来の二人の姿なのだと思っている。
アンパンマンは罪を憎んで人を憎まない、純真無垢な正義の味方である。鉄腕アトムのように強くはないが、困っている人を見つけたならば、直ちに自分の体を張って助け出そうとする。
アンパンマンがばいきんまんと差しで戦ったら、狡猾なばいきんまんが必ず勝つ。アンパンマンの顔が水で濡れたり、埃で汚れたりすると、直ちにパワーダウンしてへたばってしまうからだ。
毎回、この様な危機が物語に設定されているが、事態が起こったならば、パン工場のジャムおじさんやバタコさんを始めとするレギュラーの仲間や、ゲストのキャラクターが、即、力を合わせてアンパンマンを助けに現れる。
新しいパンを焼いてもらい、新鮮なアンパン(アンパンマンの顔)に交換することによって、再びアンパンマンは甦る。
「元気百倍! アンパンマン!」
「アンパーンチ!!」
「バイバイキーン」
ばいきんまんがパンチをくらって、遠くへぶっ飛ばされてしまう。
ぼくが喋り始めたばかりの娘のジョイに、
「アンパンマンのビデオ観ようか」
と話し掛けると、ジョイは
「アンパンマーンって」
そう言って、いつもはしゃぎだす。
過日、レンタル・ビデオのお店へひとりで赴いて、アンパンマンのビデオを選んでいる最中に、ぼくは知らず知らずのうちに
「アンパンマーンって」
幾度も呟きながらビデオを選んでいた。四本選んで、キャッシャーの前にビデオを置いた折にも、
「アンパンマーンって」
つい発してしまった。すると店員さんが、上目遣いにぼくを見上げて、
「大丈夫ですか」
ぽつりと言った。ぼくは我に返って赤面してしまった。
帰途、車の中で、ぼくは
「アンパンマーンって」
はばかることなく叫んでいた。
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