2003年3月5日水曜日

第十八回 ワイン

初めての海外旅行は新婚旅行で訪れたフランス。夕刻、若い二人は旅行代理店が予約を入れてくれていた三ツ星レストランへ向かった。メニューを見てもさっぱり分からないので、これまた旅行代理店が、予め準備してくれた献立が順番に運ばれて来ることになっている。

暫らくして、食前酒のオーダーを伺いに来た給仕に、二人が声を揃えて
「コーク」
と告げたので、給仕は両腕を左右に大きく広げて
「オーノー」
と叫んだ。

若いふたりは、アルコール類をオーダーしようと相談をした。その後で、恐る恐る彼らのテーブルに
やって来たソムリエに、
「焼酎のウーロン茶割りでも頂こうか」
と、電子辞書を片手に新郎が胸を張った。短い沈黙が漂う。ソムリエの赤ら顔が引きつっていた。

フランス人は葡萄酒を称揚する。「葡萄酒なき食事は太陽なき一日のごとし」、「葡萄酒は神の飲み物、水は動物の飲み物」。

ブリア・サヴァランは『美味礼讃』で、ワインについて語っている。「すべての飲み物の中で、最も愛すべき葡萄酒、これは葡萄を植えたノアの賜物であるのか、それとも葡萄酒の実を絞ったというバッカスの賜物か・・・ 何れにせよ世界の少年時代に始まっている」

ギリシア神話ではワインの神様として仰がれたディオニュソス(バッカス)が、食いしん坊のシレノスからワインの作り方を学んで各地に広めた。旧約聖書の『創世記』第九章には、箱舟から出たノアは農夫となり、葡萄畑を作り始めたとの記述がある。

さて、イエス・キリストによる最初の奇跡は、新約聖書の『ヨハネによる福音書』第二章に記されている。ガリラヤのカナという所で婚礼があり、祝宴の途中でワインが尽きてしまった。イエスは六つ置いてあった石の水がめに、水を入れるように命じた。それを総て飛び切り極上のワインに変えたのである。

ハリウッドに『ミッシェリーズ』という名の、ピザを売り物にしているイタリアン・レストランがある。この店のハウス・ワインが安価で滅法旨い。十数年前の話しだが、入り口を入って左の階段を上がるとバーがある。小柄なイタリア人オーナーの名前は忘れてしまったが、夜遅くに行くと胸元のはだけたシャツを着て、ブランデー・グラスを掌の中で揺らしながら止り木に腰を掛けている。ぼくが横に座ると、決まってチーズの盛り合わせをおごってくれた。往時の彼は六十輩の風狂な人と見た。

酔いが回ってくると、彼が必ず口にする話題がある。
「今度戦争をしたら絶対に勝つぞ!」
日本、ドイツ、イタリアは同盟国であったが、ドイツ人に言わせてみれば、
「再び戦争が始まったらイタリアを外そうぜ、そうすれば必ず勝つさ!」

第二次大戦中に、日本軍とドイツ軍の幹部が作戦会議を行なった際に、ドイツ軍の指導者が、
「我々は神以外、何者も恐れない」
と士気を高めた。それを受けて日本軍の代表が、
「我々は神おも恐れない」
と締めくくったので、顰蹙(ひんしゅく)をかってしまった。これこそ神なき日本の象徴ではないか。

「枝がぶどうの木につながっていなければ、自分だけでは実を結ぶことができないように、あなたがたもわたしにつながっていなければ実を結ぶことは出来ない。わたしはぶどうの木、あなたがたはその枝である。もし人がわたしにつながっており、またわたしがその人とつながっておれば、その人は実を豊かに結ぶようになる。わたしから離れては、あなたがたは何一つできないからである」(ヨハネによる福音書/第十五章・四~五節)

宗教改革者のマルチン・ルター曰く
「ワインと女と歌とを愛さぬやつは、生涯盆暗で終わる者である」

酒も女もカラオケも、日本の男性が好きなものばかりである。あとはイエス・キリストに繋がってさえいれば、必ず勝利する。そのことを肝に銘じてほしい。

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