巷では、随分と質のよくない風邪が流行っているみたいだ。ぼくは咽喉(のど)をやられてしまったし、細君と二歳のジョイも鼻かぜに苦慮している。
今、午前零時を過ぎたところである。ヘッドホンでバッド・シャンク(アルトサックス)を聴きながら、温かいアール・グレイをすすっている。言わば一息つきながら、「ラッパ」の原稿をのらりくらりとつづっているのだ。
いよいよ明日から、細君と二人でダイエット食に挑む。その名も「七日間脂肪燃焼ダイエット法 ♪」。最後に音符がくっ付いている訳は、このダイエット法のメニューを伝授してくださった方が、ソプラノ歌手の竹下佳子さんであるからだ。
野菜スープを基本として、果物、野菜、肉、玄米、それにスキムミルクを摂取することが、脂肪を燃焼させるダイエット・メニューである。併せてお茶などの水分をよく摂ることと、ブラックコーヒーや甘味料の入っていないジュースなら飲んでも良いらしい。
驚いたことは、何と六日目にはステーキを最高三枚まで食べてよいというのだ。こんなにたくさん食べて、一週間で五キログラムから八キログラム痩せるそうである。太っている人で、三週間で十五キログラムの減量に成功した人もいるらしい。
ぼくの第一目標は、取りあえず体重を二十キログラム減量して、八十キログラムになることだ。元来、このダイエット法は、心臓外科手術の前に急速な減量を行なう為に用いられている。
ぼくは今、減量の成功を祈りながらも、根っからの食いしん坊ゆえ、ご馳走のことばかりが頭にちらつく、だが、当分はお鮨にラーメン、とんかつ、中華、フライドチキンとはお別れである。体重の増加と運動不足を解消することは、現代人にとって必須の条件なのである。
この夏、ペッパー・アダムス(バリトンサックス)のライブと、ダイアナ・クロール(ヴォーカルとピアノ)のライブ・イン・パリをよく聴いた。この二つのライブ・アルバムは灼(や)くる夏のフィーリングにぴったりと合うのである。
夏の終わりに、ぼくはいつものように、これらの曲を自動車の中で聴きながら、知人のKさんのお宅へと向かった。電話での話しによると、ロサンゼルスでのオペラ公演を開催するにあたり、ぼくに相談に乗ってもらいたいことがあると言う。
一体このぼくに、何がしの相談に乗れることがあるのだろうかと思慮しながら、ハッシェンダハイツにある、K邸でもたれるミーティングに参加してみた。その席にはKさんの他に、ソプラノ歌手の竹下さんと演出家の前重さん、そしてTV局の関係者が何人かいた。
早い話が、彼らはぼくに、オペレッタのプロデュースと脚色を依頼して来たのである。折角だが、何しろ寝耳に水である。たとえ前もって説明を受けていたとしても、ぼくにオペレッタの仕事など出来る訳がない。ぼくはその場できっぱりとお断りした。
何日か経ってKさんと電話で話をしたのだが、彼女にいつものような覇気が感じられない。事情を伺ってみると、ぼくがプロデューサーを引き受けてくれないと、発声練習と舞台稽古に身が入らないという。電話口の向こう側で、意気消沈している彼女の顔が想像された。
そのようなことを言われて困るのは、このぼくである。安請け合いしようものなら、今度は細君から非難の声が聞こえてくる。まるで板挟みである。ぼくは熟考を重ねてから、もう一度オペレッタの詳細についてKさんに質問をぶつけてみた。
オペレッタの出し物は、広島の原爆投下を主題にした『撫子』(なでしこ)という歌劇を上演する<予定>でいるという。原作は被爆者の女性が書いているらしく、広島では非常に人気の高い内容であるそうだ。
結局、小規模なオペレッタであるということと、クリスマスにはイエス・キリストをテーマにしたオペレッタにも取り組んでくださるということで、ぼくはプロデューサー兼、脚色の仕事を引き受けることにした。
ここまで「ラッパ」を書き終えてから、キッチンより野菜スープの煮えた香りが漂って来た。実は先ほど仕込みを終えて、大きな鍋を火にかけて煮込み始めた時から、この稿を書き始めている。
明日からは、いよいよ野菜スープの日々が始まる。 ♪ 今日も野菜スープ 明日も野菜スープ これじゃ年がら年中 野菜スープ 野菜スープ ♪ ちょっと古かったかな? では、新バージョンでどうぞ ♪ やさい やさい やさい 野菜を食べると おなか おなか おなか おなかがへっこむ ♪ |
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